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“楽しいから来ている” 若者たちが循環する宍粟市の関係人口プロジェクト

  • 5 日前
  • 読了時間: 7分

土曜日の朝10時。元幼稚園をリノベーションしたキャンプ場「トントゥ ヒジマ」に、スノーボードや寝袋を積んだ車が次々と到着します。


集まってきたのは神戸市内の大学生たちです。目的は観光でもアルバイトでもありません。“サウナづくり”です。


「宍粟市におもしろい場所があると聞いて来ました」


遊びの延長のようでいて、気づけば地域と深く関わっている。“楽しいから来ている” ——そんな関係人口のかたちが宍粟市で生まれ続けていると聞き、現場を覗かせてもらいました。


大学生がまず車から下ろしたのは自前のスノーボード。
大学生がまず車から下ろしたのは自前のスノーボード。



江戸時代、神戸より栄えていたまち

兵庫県西部に位置する宍粟市。複数の谷から成る自然豊かなこの地域は、林業や良質な鉄の産地として栄え、江戸時代には神戸市よりも経済的ににぎわっていたともいわれています。


現在も林業や食品加工業が盛んですが、市内には鉄道が通っていません。若者の多くは進学や就職を機に市外へ出ていくといい、Uターンも決して多くはないのが現状です。


一方で近年は、“住む”という選択だけではない関わり方も広がっています。そのひとつが、今回のサウナづくりプロジェクトです。


豊かな森林と川のせせらぎ…無条件に癒される環境。
豊かな森林と川のせせらぎ…無条件に癒される環境。


はじまりは「どうせなら、みんなで」

舞台となっているのは市内中心部からほど近い「トントゥ ヒジマ」です。サウナの妖精 “トントゥ” の名を冠したこのキャンプ場は、元「ひじま幼稚園」をリノベーションした施設です。

もともと川沿いにテントサウナを設置していますが、施設オーナーと、常連として通う地元の工務店に勤める若手社員・小谷駿介さんとの間で話が盛り上がり——小谷さんが、市内で多自然地域応援コーディネーターとして活躍する、広瀬 和磨さんに声をかけ、

「どうせつくるなら、ファンを増やして、いろんな人と一緒にやっていこう!」と、新たなサウナづくりが始まったそう。

そこで2025年夏にコンペを実施。いいアイディアがたくさん集まるなか、神戸芸術工科大学建築・環境デザイン学部のチームの設計アイディアである「循環型のサウナ」に決定しました。

同年末からは、「アースバック工法」による手づくりの建設がスタート。「アースバック工法」とは環境配慮型の建築技術のことで、今回のサウナづくりではまず、土・砂・セメント・水を混ぜてモルタルをつくり、乾燥させてブロック状にし、これらを積み上げて立体にしていきました。また、地元事業者が材料の一部の土を提供するなど、地域内の協力も得ながら、ここまで順調に作業が進んできました。


市内の工務店に勤める小谷さん(左)とコーディネーターの広瀬さん(右)。年齢も近いお二人。
市内の工務店に勤める小谷さん(左)とコーディネーターの広瀬さん(右)。年齢も近いお二人。


人から人へ、広がる参加の輪

サウナづくりのここまでの工程に、のべ100人以上が関わっているそうです。


さらに、このプロジェクトの興味深いところは、若者のみなさんの参加が “循環” していることです。


参加している大学生の多くは、関係者の大学の後輩や、その友人たち。「宍粟市いくけど来る?」 そんな軽い誘いから参加するケースも少なくありません。


前回から少し時間を置き、続きの作業をすることになったこの日も、まずは加古川市から来たOB参加者が神戸市内の学生たちを車に乗せて到着しました。初参加の学生は、「ナイターのスノボに誘われたのに‥なぜ集合が朝8時?」と思いながらも友人についてきたそうです。前回も参加している大学生たちは、慣れた手つきで材料などを次々に車から下ろしていきます。


一方で、サウナづくりの作業は決して楽ではありません。この日は、前回までにある程度サウナの構造物が完成している状態から、金網を固定するチーム、モルタルを練るチーム、内壁にモルタルを手で塗っていくチームなどに自然と分かれ、それぞれが作業を進めていきました。


「もっと腰入れなあかんで!」


2回目の参加だという学生が初めて来た学生に声をかけながら、笑い声が絶えません。

初参加の学生はこう話します。 「こういう機会ってなかなかないので、大変だけど好奇心のほうが勝ちます」


2回目の参加の学生は、 「関わっている人がおもしろい。それに、サウナをつくったっていう経験が残る」と語ります。

卒業後もOBとして関わり続ける人もいて、それぞれの得意分野を生かして活躍していました。 こうして、“住んでいなくても、関わり続ける” かたちが自然に生まれています。


大学時代から宍粟市に通っているOBで元工務店勤務の恒藤さんは自前のヘルメットで参加。
大学時代から宍粟市に通っているOBで元工務店勤務の恒藤さんは自前のヘルメットで参加。


挑戦できる余白がある

サウナづくりの発起人の一人である小谷さんは、「自分だけではここまで広げられなかった」と、広瀬さんの存在の大きさを語ります。


広瀬さんは、大学で観光を専門に学び就職したのち、縁あって地域おこし協力隊として宍粟市に関わるようになりました。現在は市内の空き家でシェアハウス生活を送りながら、地域の数多の活動をコーディネートしています。


市内に鉄道がないこと、関係人口のみなさんが外から来るときの交通の便について尋ねると、「とくに課題とは思っていません。もともとないものとして考えています」と話します。


「それに、大阪府や神戸市からのバスも通っているので、近くのバスセンターへ車で送り迎えをするくらいで、みなさん都市部からも足を運んできてくれます」


そして印象的だったのが、「宍粟に来たらおもしろいことができる」という言葉です。神戸市などの街中では難しいことも、ここでなら実現できる、そういう場だと体感してもらっているそうです。


関わる学生たちの専門は、建築や外国語などさまざまですが、建築を学ぶ学生でさえ、「実物のサウナ」という建築物を仲間と一からつくる経験はなかなかできないそうで、まさに今回の場はとても貴重だといいます。


サウナの妖精 “トントゥ” さんも室内から見守ります。
サウナの妖精 “トントゥ” さんも室内から見守ります。


地域が応援する空気


そして、このプロジェクトを支えているのは若者の関係人口のみなさんだけではありません。

地域の事業者も積極的に関わっているほか、サウナづくりがスタートして、地元の親子など住民のみなさんも、楽しみながら一緒に作業をしてきました。

小谷さんはこう話します。 「気楽に参加できるのがウリなんです」

前回、スノーボードに誘われたついでにサウナづくりに初参加した大学生も、今回は新たに友人を誘って来てくれたといいます。 「今回はやったるで!という気持ちで参加しました」

スノーボードやキャンプと組み合わせながら、無理なく続く関わり方。

それが、参加者にとって、“また来たくなる理由” にもなっているようです。


自らの手でモルタルを内壁に塗る作業は見た目より重労働。
自らの手でモルタルを内壁に塗る作業は見た目より重労働。


これからも続く循環

サウナは完成して終わりではなく、関わった人がまた新しい人を連れてくる循環を、これからも育てていくといいます。さらに数年後にはこのサウナも土に還し、また新たにいろいろな人の手でサウナをつくって育てていくことも見据えています。


広瀬さんは今後についても語ってくれました。 「今後は自然共生というテーマでも活動していきたいと考えています。宍粟市は林業のおかげで山の手入れが行き届いていて、兵庫県でもたくさんのタガメに会えるのはここだけ。絶滅危惧種もたくさんいます。たとえば、外来種の監視活動だったり、地元の子どもたち、それに関係人口もふくめてなにか考えていきたいです。」

今回のサウナづくりに参加していた大学生のなかにも、広瀬さんが関わる過去の別プロジェクトから継続的に宍粟市に通っている人もたくさんいるそうで、新たな活動はまた、参加者にとっての “新たな楽しみ” になるのではと感じました。

移住しなくてもいい。 特別なスキルがなくてもいい。

「おもしろそう」「ちょっと行ってみたい」  そんな気持ちから始まる関係が、地域との新しいつながりを生み出しています。

“楽しいから来ている”。

そんな関係人口のかたちが、兵庫県の多自然地域で広がっています。


この日、作業に参加したみなさん。楽しそうな笑顔が印象的。
この日、作業に参加したみなさん。楽しそうな笑顔が印象的。

取材日:2026年2月21日

取材者:たしラボ 塚田 玲子



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